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『実力発揮のメンタルトレーニング』

コーチングに役立つ実力発揮のメンタルトレーニング

コーチングに役立つ実力発揮のメンタルトレーニング

 

 メンタルトレーニングに関する本を読んだ。スポーツ心理学者のロビン・S・ビーリー博士の著書の『Coaching for the Inner Edge』の邦訳である。イメージトレーニングやセルフトーク、呼吸法といった具体的なメンタルトレーニングの方法よりも競技者としての心の持ち方という点で、示唆に富んでいたと思う。印象残った3点をまとめておく。

1点目は完璧主義に関してで、競技の上達に有効な積極的な完璧主義と、競技の上達を阻害する消極的な完璧主義があるという主張だ。

オリンピックの金メダリストはミスをすることや動作を正しくできないことを心配する「消極的な完璧主義者」ではなく、基準を高く設定し、効果的なスキルを発達させる「積極的な完璧主義者」であった。さらに、彼らは高い水準の楽観主義、もしくは、「良いことが起こるだろう」という漠然とした期待を持っていた。(184頁)

積極的な完璧主義者は、自分が常に完璧にプレーできないことを受け入れているのに対して、消極的な完璧主義者は、必要以上に自分のパフォーマンスを批判的に評価し、良く感じることはめったになく、「私は完璧にプレーをしなくてはいけない」という考えにとらわれているという指摘がされている。自分は、「完璧にやらなければならない」「勝たなければならない」などと考えて、失敗を恐れるような消極的な完璧主義の面があるように思う。これからは高い向上心を持って、困難を克服していくような積極的な完璧主義を目指していきたい。

2点目は競技中の最適な精神状態に関してである。活動に非常に集中して良いパフォーマンスを発揮できる精神状態は「フロー」と呼ばれるが、この本ではスポーツにおける「フロー」とは何か、最適な精神状態で競技を行うにはどうすべきか示唆されている。

「フロー」状態の時には、選手は結果についてまったく考えていない。実際、「フロー」の最大の特徴は楽しむことへの集中であり、勝つことは後回しにされている。勝利のための最も良い方法は、勝利について考えないことである。(260頁)

勝利について考えず、楽しむことに集中するということは、やろうと思ってもできないように感じる。著者も、フローとは、意識的な注意を必要としない自動的処理状態であり、意図的に完全にコントロールすることはできないと指摘している。その上で、リラクセーションやサイキングアップの手法によって、適度な覚醒状態を作り、プレッシャーや不安に意識的に対処することで、フローが生じやすくなると述べられている。また、”今”、自らがコントロール可能な課題に集中するという考え方が大切であるという。精神状態は完全にはコントロールできないが、考え方やメンタルトレーニングの手法によって、良い状態に近づけるということはメンタル面を鍛えるための基本的な認識となるだろう。

3点目は自信について。自信を持つことは競技での良いパフォーマンスにつながるが、競技者が持つべき自信は三種類あるという。

スポーツや試合において、選手は三つの基本領域の能力に関して、自信を持つ必要がある。第一は、選手は、パフォーマンスをうまく発揮するために必要な身体的技術に関する自信が必要である。第二は、選手は集中を維持し、効果的な決断をくだすといった心理的スキルに関して自信を持つ必要がある。第三は、選手は失敗後の集中の回復、うまくパフォーマンスを発揮できなかった際の立ち直り、困難の克服に関する能力に関して、自信を持つ必要がある。(289頁)

 第一の身体的技術に関する自信を養うには、適切な目標設定に基づき、達成感を感じられる身体的トレーニングを行うことが有効であると指摘されている。第二、第三の自信に関しては、メンタルトレーニングによって、自己の情動、思考、行動をコントロールする方法を身につけることが大切だと述べられている。心理的スキルは、メンタルトレーニングによって発達させることができるが、身体的なトレーニングと同様に、地道に継続して取り組むことが必要であるという。これまでの自分を振り返ると、競技に自信が持てない時に、「大丈夫だ」と自分に言い聞かせようとすることはよくあるが、何に自信が持てないのか、どうしたら自信が持てるのかというような考え方は、あまりしたことがなかった。自信を持って、良い集中状態で競技を行うには何をすべきかということを、日頃から意識してトレーニングを行っていくことが必要であると考えさせられた。